甲状腺疾患
甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です。ここから分泌される「甲状腺ホルモン」は、全身の細胞に働きかけて新陳代謝を活発にする、人間が生きていく上で欠かせないエネルギーの源となります。このホルモンのバランスが崩れたり、甲状腺自体に腫れやしこりが生じたりする状態を総称して甲状腺疾患と呼びます。
甲状腺疾患の症状について
甲状腺の病気は、ホルモンの量が増えすぎる場合と、逆に不足してしまう場合、そして甲状腺の中に「しこり」ができる場合の3つに大きく分けられます。それぞれの状態によって、体に現れる症状は全く異なります。
甲状腺ホルモンが過剰になった時の症状
ホルモンが過剰になると、全身の代謝が異常に高まり、常に全力疾走をしているような状態になります。具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 動悸や息切れがしやすく、安静にしていても脈拍が速い
- 食べているのに体重が減る、または食欲が異常に出る
- 暑がりになり、じっとしていても汗をたくさんかく
- 手が細かく震える、指先に力が入らない
- イライラしやすくなり、落ち着きがなくなる
- 排便の回数が増え、下痢気味になる
甲状腺ホルモンが不足した時の症状
ホルモンが不足すると、全身のエネルギーが低下し、活動が鈍くなります。心身ともに「省エネモード」になってしまうため、以下のような症状が目立ちます。
- 強いだるさや疲れやすさを感じ、やる気が起きない
- 寒がりになり、皮膚が乾燥してカサカサになる
- 食べていないのに体重が増える、または体がむくむ
- 顔全体が腫れぼったくなり、特にまぶたや手がむくむ
- 便秘がちになり、お腹が張る感じがする
- 脈拍が遅くなり、記憶力や集中力が低下する
甲状腺の腫れやしこりに関する症状
ホルモンのバランスに異常がなくても、甲状腺そのものが腫れたり、しこりができたりすることがあります。鏡を見た時にのどのあたりが膨らんでいる、あるいは手で触れた時に硬い塊があるといったことで気づく場合が多いです。喉の違和感や、食べ物を飲み込みにくいといった自覚症状が出ることもありますが、多くは痛みを感じないため、健康診断などで指摘されて初めて判明することもあります。
甲状腺疾患の原因について
甲状腺の病気の多くは、「自己免疫疾患」やウイルス感染が原因です。遺伝的な体質に加えて、ストレスや過労、妊娠・出産、ウイルス感染などの環境的な要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。
自己免疫の異常による反応
その他の原因とリスク因子
甲状腺疾患の発症には、特定のリスク因子(病気になる可能性を高める要素)が存在します。代表的なものには、以下のような内容があります。
- ヨード(ヨウ素)の過剰摂取あるいは不足-海藻類などの摂りすぎが影響することがあります。
- ウイルスや細菌の感染-炎症を引き起こし、一時的な機能異常を招くことがあります。
- 精神的な強いストレスや生活習慣の乱れ。
- 薬剤の副作用による影響。
また、甲状腺の病気は圧倒的に女性に多く、男性の数倍から十数倍の頻度で見られます。特に20代から50代の幅広い年齢層で発症しやすいため、女性特有の体調の変化として注意深く見守る必要があります。
甲状腺疾患の種類について
甲状腺の病気は多岐にわたりますが、当院の診療で頻繁に遭遇する代表的な種類を詳しく解説します。診断には、血液検査でホルモン値(FT3、FT4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を測定し、さらに超音波検査(エコー)で形状を確認することが不可欠です。
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
甲状腺を刺激する抗体が作られ、甲状腺ホルモンが必要以上に分泌される病気です。20代から30代の女性に多く、目が突き出る(眼球突出)や、甲状腺全体の腫れ、動悸などが特徴です。新陳代謝が異常に高まるため、心臓への負担が大きく、早期の治療開始が重要となります。
橋本病(慢性甲状腺炎・甲状腺機能低下症)
甲状腺に慢性的な炎症が起こり、組織が徐々に壊されていく病気です。進行するとホルモンを作る力が弱まり、機能低下症となります。40代以降の女性に多く、むくみや冷え、無気力感などが現れます。適切なホルモン補充を行えば、健康な時と変わらない生活を送ることが可能です。
亜急性甲状腺炎
ウイルス感染などが原因で甲状腺に炎症が起き、一時的に痛みや腫れ、発熱を伴う病気です。甲状腺の組織が壊れることで、蓄えられていたホルモンが血液中に漏れ出し、一時的な機能亢進状態になります。数ヶ月で自然に治ることが多いですが、痛みが強い場合はステロイドなどの薬物療法を行います。
甲状腺腫瘍(良性・悪性)
甲状腺の中にできるしこりです。大部分は良性の結節性甲状腺腫ですが、中には悪性(がん)の場合もあります。甲状腺がんは比較的進行が緩やかで、早期に発見すれば予後(病気の経過の見通し)が良いものが多いのが特徴です。当院では超音波検査で甲状腺主要が見つかった場合、必要に応じて高度医療機関をご紹介します。
甲状腺疾患の治療法について
和基本的には採血で甲状腺ホルモンを確認しながらお薬による内科的治療を行っていきます。
抗甲状腺薬による治療
バセドウ病などでホルモンが出すぎている場合は、ホルモンの合成を抑える薬(抗甲状腺薬)を服用します。最初は多めの量から始め、血液検査の結果を見ながら徐々に減らしていきます。数ヶ月で症状は落ち着きますが、自己判断で服用を中止すると再発のリスクが高まるため、根気強く続けることが必要です。
ホルモン補充療法
橋本病などでホルモンが不足している場合は、足りない分の甲状腺ホルモンを飲み薬で補います。これは「薬」というよりも、体に足りない「成分」を補給するイメージです。副作用もほとんどなく、妊娠中の方でも安心して服用いただけます。一度最適な服用量が決まれば、長期間安定した状態を維持できます。
経過観察と生活指導
甲状腺の腫瘍や、症状の軽い橋本病の場合は、すぐに治療を始めず、数ヶ月ごとの検査で経過を観察することがあります。また、食事面では、昆布などのヨードを多く含む食品の摂取量についてアドバイスを行います。私たちのクリニックでは、糖尿病診療で培った豊富な経験を持つ専門スタッフがチームとなり、患者さんの日常生活をトータルでサポートします。
甲状腺疾患についてのよくある質問
Q1. 甲状腺の病気は一生薬を飲み続けなければなりませんか?
A1. 疾患の種類によります。バセドウ病の場合は、数年間の服用を経て薬を卒業できるケースもあります。一方、橋本病で機能が完全に低下している場合は、ホルモンバランスを保つために長く飲み続ける必要があります。適切な量を服用していれば健康な方と全く同じ生活を送ることが可能です。
Q2.甲状腺の病気と糖尿病には関係がありますか?
A2. 甲状腺疾患と糖尿病は、併発する場合があります。甲状腺ホルモンの異常が血糖値に影響を与えることもあるため、当院のような糖尿病内科で両方の疾患を総合的に管理することは、全身の健康を守る上で非常に大きなメリットとなります。
